宝箱

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その宝箱は 街から少し離れた森の中にあって
わたしたちからは イナフと呼ばれていた

中には 開けた者を満足させるものが入っているのだと聞いていた

わたしはいつも寂しくて仕方なかったから
イナフを追って森に入った

初めの7日間 イナフと大喧嘩と仲直りを繰り返した
わたしはたくさん泣き 笑った 

次の7日間 イナフはわたしの名前を呼び続けた
わたしは答えず まだ 森にいた

次の7日間 イナフは「そうか」しか言わなくなった
わたしはイナフの方を見なくなった

ある日 イナフが鍵を落としたまま眠っていた
わたしは迷いなく イナフを開けた

中にあったのは イナフの小さなプライドだった
カラン、と一音を鳴らし それは消えた

「イナフ、さよなら」

わたしは ひと月前 空っぽの宝箱だった
わたしの中にいろんなものが増えていき
イナフはすべてを引き継ぎすべてを失った

森を出ていくわたしに イナフはお別れを返した

「さよなら、イナフ」

須江京

こんにちは。
シナリオライター、台本脚本執筆、歌詞提供を生業としている人間です。生後5年間、無国籍でした。わたしの裏側には仄暗い部分があります。居場所の見つからない感覚がずっとあります。

ここは、わたしの裏側を溢れさせたサイトです。

生業としては旧姓の、「梅田京(うめだけい)」にて活動していますが、ここでは、

わたし個人が書きたかったもの、
だいぶ昔からひっそり書いてきたもの、

を再婚後の名前、「須江京(すえ けい)」として、ひっそりと載せていきたいと思います。詞や歌詞が主です。

いまなら恥ずかしいだいぶ昔の作品が多いです。アーティストへの提供歌詞の一部も載せております、ほんのほんの一部の、出せるもののみです。

どうぞ、アクセスしてくれた方が良い時間を過ごしていただけますように。わたしの言葉がどなたかのなんらかの力になれますように。

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